「景観工法」と「景観舗装」について
はじめに
皆さんは「景観工法」という言葉をご存じでしょうか。「景観工法」と聞いても、ピンとくる人は少ないかも知れません。建設や土木関連のお仕事に就いていらっしゃる方や、その関係者であればお馴染みの言葉かも知れませんが、市井の市民として普通に暮らしている人には何のことだか想像もできないでしょう。そこで本ブログでは、業界の部外者で経営コンサルタントである著者が、「景観工法」についての話題やテーマをまとめて、皆さんへご紹介いたします。
「景観工法」とは?
「景観工法」とは、その文字通り「景観」に関する「工法」のことです。ところで、「景観」とは何でしょうか。「景観」という言葉について大辞林は
①けしき。ながめ。特に、すぐれたけしき
②ドイツ語のLandschaft、英語のLandscapeの訳語。人間の視覚によってとらえられる地表面の認識像。山川・植物などの自然景観と、耕地・交通路・市街地などの文化景観に分けられる。
であると説明しています。景観工法で言う景観とは、耕地・交通路・市街地などの文化景観を意味するとおおむね考えて良いでしょう。つまり、住宅地や商用施設などを含む街の景観を整えたり変えたり、あるいは維持するための一連の工法を総じて「景観工法」と呼んでいます。
景観工法がいつどのようなかたちで日本へ入ってきたかについては諸説あるようですが、筆者が想像するに、多くの欧米の学術用語が日本語に翻訳された江戸末期から明治期あたりにかけて「景観」の概念が輸入され、少しずつ社会的・専門的な言葉として定着の歩みを始めたように想像されます。そして、景観工法が我が国で本格的な普及を始めたのは、それほど昔の話ではないようです。
「景観舗装」とは?
ところで、「景観工法」と並んで「景観舗装」という言葉も業界内で使われています。「景観工法」を母集団とするならば、「景観舗装」はそれを構成する重要な要素のひとつであると言っていいでしょう。「舗装」という名が付いている通り、「景観舗装」は、街の景観を整えたり変えたり、あるいは維持するための一連の工法のうち、「舗装」に関する工法のことです。では、「舗装」とは一体何でしょうか。
「舗装」とは、道路の耐久性を強化したり、車両の安全性や快適性を向上させるために石、コンクリート、アスファルト、砂利などで道を敷き固めることです。簡単に言うと、土でできた道路の上にコンクリートやアスファルトなどを敷き、表面を強化することです。なお、英語では「舗装」をPavementと呼んでいます。
日本における舗装の歴史は、3500年前の縄文時代までさかのぼるとされています。日本初の舗装は長さ40メートル程度の生活道路で、道の両側に石を置き、表面に砂利を敷き詰めたいたって原始的なものでした。やがて時が過ぎて江戸時代に入ると、江戸や京都、長崎などで石畳舗装が普及し始めています。
欧米に比べて大きく後れをとった日本の道路舗装
日本初のアスファルト舗装は、1878年に神田の昌平橋で施工されたものであるとされていますが、日本で自動車が本格的な普及を開始する1899年頃までは、日本の道路は「未舗装」と呼ぶべき状態でした。その後の自動車の普及に道路舗装の整備が追い付かず、本格的な近代舗装の時代を迎えるまでには明治・大正、そして昭和の時代の大部分を経なければなりませんでした。
昭和に入るとアスファルトが国産化され、アスファルト舗装の普及が始まりました。しかし、1931年時点の東京市の道路の舗装率は55%で、道路舗装事業は欧米に比べて大きく後れを取っていました。日本の道路舗装が遅れた理由については、欧米のような馬車交通の文化が発展しなかったことと、都市部住民の主な移動手段が徒歩であったことであるとされています。
第二次世界大戦後、米軍の空襲などにより市街地の道路は荒廃し、多くが未舗装の状態に陥りましたが、石油産業の発達により安価なアスファルトの調達が可能となり、1954年に始まった第一次道路整備五カ年計画の遂行を後押しする形となりました。その後、高度経済成長とともに日本全国で道路舗装事業が進み、2000年までに一般道路の舗装率が76.4%に達しました。今でも、日本においてはアスファルト舗装が道路舗装の主たるもののひとつとなっています。
日本の道路舗装はアスファルトとコンクリートがメイン
日本でアスファルト舗装の普及が本格化したのは、比較的最近のことであることがお分かりいただけたと思いますが、日本の道路舗装はアスファルト舗装とコンクリート舗装の二つがメインです。特に舗装の使用材料による分類では「アスファルト舗装」「コンクリート舗装」「コンクリートブロック舗装」に分けられていて、「アスファルト舗装」は「舗装表面にアスファル混合剤を用いた舗装。最も一般的で、主に車道で用いられる」と定義されています。
では、アスファルト舗装で使われるアスファルトとは一体何でしょうか?次回は、このアスファルトについてもう少し細かく見てみたいと思います。
(参照サイト)
https://rmec.or.jp/wp-content/uploads/2016/03/vol05-3235.pdf
http://askyo.jp/knowledge/01-2.html
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/inter/keizai/gijyutu/pdf/road_design_j1_03_1.pdf
執筆者 前田 健二(まえだ・けんじ)
経営コンサルタント
大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスで外食ビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップや経営に携わり、2001年に経営コンサルタントとして独立、新規事業立上げ、アメリカ市場進出を中心に支援を行っている。